No.23 「水蒸気かま鳴り」の真実 2003.6.17.掲載

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 「釜鳴り神事」がそんな低温度差で鳴るのはなぜだろう?

 「釜鳴り神事」とは巫女が釜で湯を沸かし、その上にすのこを敷いたセイロを載せ、そこに冷たい玄米を振り撒くと、その後、ボーという大きな音が一定時間(2分間ていど?)鳴り、その音で吉凶を占うという儀式である。
 物理現象として眺めると、高温部と低温部との温度差が百度以下という低温度差で起こる極めて珍しい熱音響自励振動の一種である。

この現象は今まで、熱音響自励振動の例として知られているレイケ管と類似の現象だと説明されて来た。レイケ管の説明は省くが、「No19.試験管で熱音響」と同様、振動気体が温度勾配に触れて膨張・収縮することで起こる自励振動である。

しかし、釜鳴り神事の水蒸気と玄米の温度差はせいぜい80度ていどである。それに対してレイケ管や最新の熱音響エンジンは熱源と冷却源の温度差は最低、数百度必要である。著者が93年に開発した「ゆうれい試験管」や最近の「試験管で熱音響」でも加熱部は400℃ていど必要である。

温度勾配について

レイケ管内では下方からの空気の対流によって金網の下面が冷やされるために温度勾配ができる。

釜鳴り神事では投げ入れた玄米が積み重なった厚みの中に温度勾配が出来る。しかし、どう考えても、温度勾配が特別大きいとは思えない。

 

フラスコでの再現実験
 2000年NHKの番組で壇上慎二氏がフラスコの首の部分に金網を入れて玄米を投げ入れると、短時間ながら音が鳴る実験をしていたらしい。著者も実験してみたが、火加減を調整すると玄米を入れてから30秒程度鳴らすことができる。入れた玄米が温まってしまうと音は止まり、再実験のためには玄米を取り出さなくてはならない。
 突沸防止のためらしいが、容器としてフラスコを選んだ所は結果として素晴らしい。しかし、TVでは残念ながら、これ以上の追求が出来ず。鉄釜と蒸篭を積んだ「神事」再現実験の方向に向かってしまったようだ。

ヘルムホルツ共鳴
 フラスコでの共鳴はズンドウな管で起こる気柱共鳴とはちがって、ヘルムホルツ共鳴(空洞共鳴)であり、容器の大きさに対してより長い波長の音波が共鳴できるのである。釜鳴り神事では釜も蒸篭も大きいので、気団が十分大きな振幅で振動することが出来る。小さい容器では共鳴する音は短波長となる。ところが、同じ振動のエネルギーならば、振動数が高いほど振幅が小さい。したがって、容器のサイズが小さいと、振動する気団の変位振幅が小さいので、気体は温度差の小さな範囲内を往復することになり、自己励起に達するほどの仕事を行えないと考えられる。釜鳴り神事のミニサイズ版が難しいのはこのためである。

 その点、ヘルムホルツ共鳴は、充分長い音波が共鳴でき、そのため同エネルギーなら振幅が大きいので有利である。つまり、小型の演示装置に向いているのは、フラスコのように下部がふくらんだ容器である。



フラスコを使っていろいろな材料を試してみた

玄米という所がいかにも豊作・不作を占えそうだが、著者はさらに色々な材料を試してみた。
@竹串をまとめたもの
 バーベキュー用の竹串を20本ていど、フラスコの口にちょうど入る太さになるよう輪ゴムでまとめて、棒状にする。
 フラスコの湯が沸いて、充分蒸気が立ったら、火を少し弱める。
 棒状の竹串を冷水でぬらし、シャッ、シャッと水気を切る。(この時、ちょっと神事っぽい(^^)
 フラスコの口から首の部分まで棒状の竹串を差し込むと、ボーと音が鳴る。
 持続時間は玄米よりやや短い。引き抜いて、また冷水につけれは再実験がすぐ出来る。

A亜鉛つぶ
 玄米は水分を含むので、熱容量が大きい。玄米と同程度の大きさのつぶを探したら、化学用つぶ状亜鉛があったので入れてみると、やはり音が鳴った。音は、数秒で止まる。亜鉛つぶは濡れ、水滴が付着する。もちろん、アルミつぶでも鳴るはずである。

Bアルミ棒
 竹串で成功したことから、長いアルミ棒の一端を冷却しながら差し入れば、連続振動が得られるかも知れないと考えた。直径20mm、長さ50cmほどのアルミ棒を差し込んでみると音は鳴ったが、10秒ほどで音は止まった。音が止んだ時、手もとは温もりがある程度であった。これでは、アルミ棒の一端を冷水につけても、連続振動できるはずはない。

水蒸気釜鳴りの真実が見えてきた

低温部が持続できれば音が持続する。つまり上の@〜Bのどれを使っても短時間ではあるが、鳴らせることが出来た。音の持続時間は材料が温まってしまうまでの時間できまる。水分を含んだ米は熱容量が大きく、時間を稼ぐのに役立っていると推察される。だとすれば、熱容量の大きな材料ほど音は長持ちするはずである。

冷却部には大量の熱が流れこむ。アルミ棒の実験では赤外温度計で温度を調べると、鳴りが止んだ時、水蒸気に触れている部分は約100℃であり、口から3cm外側で約40℃であった。アルミの熱伝導率から考えると、冷却部は大量の熱を貰っていることが推察される。

☆冷却部には大量の水が発生すること。亜鉛つぶやアルミ棒の実験では冷却材の表面にたちまち水滴が生じるのが観察できる。また、鳴っている間はフラスコの口から外部へ湯気がほとんど立ちのぼらない。つまり、フラスコの湯から生じた水蒸気のほとんどが冷却材表面で凝縮していることは明らかである。

まとめると フラスコで生じた水蒸気のほとんどは玄米や竹串、アルミ棒などの冷却材の表面に触れて凝縮する。気体は凝縮すると1000分の1程度に体積が小さくなる。水蒸気の気団は冷却部に触れ凝縮すると、その部分の圧力が急速に減少する。振動にともなって高温部で膨張し、低温部で収縮する気団のサイクルに凝縮による圧力変化が加わることで、圧力振幅は成長する。このようにして自励振動が起こると考えられる。

連続的な釜鳴りに成功!
 冷却材は水蒸気の凝縮熱を大量に受け取るので、温度が上昇してしまい、やがて自励振動は止んでしまうのである。したがって、受け取った熱をすみやかに逃がしてやれば連続振動が実現するはずである。熱伝導の良い太いアルミ棒であっても、上に述べたとおり、他方の一端を冷やしても熱伝導では素速く熱を逃がすことが追いつかず、連続的には鳴らせない。

そこで、銅パイプを折りたたんだ水冷クーラーを製作した。これを用いて、やっと連続的に釜鳴りをさせることに成功したのである。

   

空き缶を使った連続釜なり装置→「No.24 空き缶で水蒸気かま鳴り」

相変化を伴った自励振動

釜鳴り神事がレイケ管と類似なら、フラスコ内が空気だけでも釜鳴りは起こるはずである。もちろん、よほど高温にすれば可能だろう。上のフラスコ装置で水を入れず、空気を100℃ていどに加熱しただけでは釜鳴りは起こり得ない。

フラスコ内の水をエチレングリコールに変えて行ったところ、フラスコ内がエチレングリコールの沸点に達すると、やはり釜鳴り音が鳴り出した。分子量が大きいので、より低い振動数の音である。

以上のことから、釜鳴り神事の水蒸気釜鳴りは、気体の熱膨張・収縮ではなく、主に気相(水蒸気)から液相(水)への変化による圧力変化が、共鳴振動を励起し自励振動を引き起こしている。そのため数十度という低温度差で自己励起することが可能なのである。このように水蒸気釜鳴りは気体の熱膨張・収縮のみによって起こるレイケ管やソンドハウス管で見られる熱音響スターリングエンジンとは違い、むしろポンポン船と同じ水蒸気の相変化による自励振動により近い現象と考えられる。

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