模型スターリングエンジンの設計の要点

 2006  小林義行・平尾尚武


1. ヒートバランス

 たとえば行程容積1cm3程度のα型スターリングエンジンの出力はシュミット理論の計算結果の出力の20%か30%ていどである。熱効率は1%にも満たない。様々な損失があるためである。これらの損失を少なくするような設計が必要である。

図1 スターリングエンジンのヒートバランス


2. 加熱器

 スターリングエンジンの加熱器はつぎのような点が求められる。
 1) 伝熱面積が大きい。
 2) 死容積が小さい。
  3) 作動ガスの流動抵抗が小さい。
 4) 耐熱性

実用スターリングエンジンにおいては、主として、伝熱面積を大きく取るため、小径のパイプを多数配置した多管式の加熱器が用いられる。しかし、パイプのロウ    
付け等、製作が非常に困難なために模型エンジンには向かない。

図2 ヒートキャップ


 製作性を考えると、模型スターリングエンジンにはキャップ式加熱器が適していると考えられる。多管式と比較して伝熱面積が小さいという欠点はあるが、薄肉構造にすることで内部ガスへの熱通過率を大きくできる。
 耐熱材料として加熱部にセラミックスを用いることも可能だが、金属に比べて熱伝導率が一桁小さく熱通過率は小さい。しかし小さなエンジンならばヒート キャップの熱容量が小さいので、石英ガラスなど比較的熱伝導率の大きい材料を選び、表面温度をなるべく高温にするという方法もある。

 

3. 熱伝導と熱再生器

  小さなエンジンではサイズ効果によって流動抵抗が大きくなりやすいため、多くの模型エンジンは熱再生器を持っていない。しかし、ヒートキャップの側面にはピストン振動方向に温度勾配が生じており、内表面近傍の作動ガスの一部がわずかながら熱再生器として機能している。
 側壁の肉厚が厚い場合、壁面を伝わって多量の熱が低温部に流れ、温度勾配が保てず出力が低下する。

そのため、小さなエンジンほど側壁の肉厚を薄くして、これを防ぐことが効果的である。肉厚が充分薄ければ、壁面熱流が少なく、低温側シリンダを近い場所に設けられるので、作動ガス流路も短縮でき小型化・高圧縮化が可能になる。
 この部分にガラスなどのセラミックスを使用する場合は、極端に薄い肉厚でなくとも熱伝導ロスは小さい。かつ側壁の内表面が熱再生器として機能しやすい。 この場合、気体との接触面に金属細線などを用いた熱再生器を設けると効果的である。ただし、熱膨張率の差が大きいセラミックスと金属との接合には注意を要 する。

図3 ガラス製ヒートキャップ


4. 内部空間の配置

図4 α形エンジンの空間配置


  限られた行程容積で高出力を得るためには、死容積を小さくして圧縮比を大きくすることが有効である。
  死容積を低減するには、まず内部ガス流路の体積を減らすことが挙げられる。そのためには膨張空間と圧縮空間を近づけるようなシリンダ配置が有効である。
キャップ式の場合、キャップ内部とピストンのクリアランスを小さくすれば死容積を低減できる。しかし、クリアランスが小さすぎるとエンジン回転数が上昇す るにつれ内部ガスの流動抵抗によりピストン速度の上昇が阻害される。最適なクリアランスはピストン直径の10%程度とされている。

 

5. 摩擦損失

ピストン・シリンダは無潤滑で充分な気密性が求められるが、同時に、摩擦損失も最小限に抑えられることが求められる。絶対的な出力の小さい模型スターリングエンジンにとっては、エンジンで一般的に使用されるピストンリングの摩擦力は大き過ぎる。
ピストンリングを使用せずに金属面をすりあわせてピストン・シリンダとした場合、熱膨張で変形することによる摩擦や漏れ、摺動面の損傷などの問題があり、十分な耐久性を得にくい。
そこで、ピストン・シリンダにガラス注 
射筒を流用することで、漏れおよび摩擦を小さくすることができる。 注射筒を流用したピストンでは、サイドスラストが大きなフリクションロスを発生させるので、サイドスラストの小さい駆動機構を用いる必要がある。

図5 サイドスラスト


6.駆動機構

  内部ガスのなす仕事から機械損失を差し引いたものが軸仕事として出力される。出力を大きくするためには、機械損失を低減して機械効率を向上させる必要があ る。機械損失は高回転になるほど大きくなる。言い換えれば、機械損失の低減によって高回転・高出力化が可能ということである。
図の(a)〜(c)は駆動機構の例である。

図6 駆動機構の例


  ピストンの摩擦ロス以外の機械的損失の原因として機械リンク中のジョイント部や軸受け部があるが、これらはボールベアリングを使用することである程度、摩擦損失を減らすことができる。
 また、各部の剛性不足や可動部の重量はエンジンの高回転化を阻害するので、部品はできるだけ小型軽量化かつ剛性を確保することが望まれる。

 

7.漏れ損失 

  作動ガスの漏れがあると、漏れ損失のため出力が低下する。模型スターリングエンジンが動かない時はまず漏れを疑うべきである。
ピストンとシリンダ擦り合わせ部分が短すぎると漏れ損失が発生する。注射器を利用する場合、擦り合わせ長さは少なくとも直径以上とした方がよい。