阪大の2017年度物理入試問題のモンダイを図で解説
2018/1/13 小林義行
昨年度の大阪大学の物理入試問題に不適切な部分があって、 1年近く遅れて追加合格が出された件について、該当の問題について解説します。
問題については例えば、 http://scienceandtechnology.jp/archives/16233
「正解が3通りあった」というような説明には、違和感を持った人が多いと思います。問題内容についても色々な解説がネットに混在して、事実に反した説明や、物理に対する信頼が揺らぐような説明が散見されました。 特に物理を勉強している高校生には、ページの図をよく見ていただいて、スッキリしてもらいたいと思い、作成しました。
例えば、見かけた説明の中では「粗密波だから固定端反射ではない」とか、 「壁が固定端とは限らない」とか「粗密波としてとらえた場合と変位波として見た場合で結果が違う」とか、 とんでもない内容もあります。まず、重要なキーワードを確認したいと思います。
キーワード
@固定端
文字通り、その波にとって振動が固定されている媒質の端っこ、境界です。縦波である音波にとって、固定された大きな壁に正面からぶつかる時の空気の端は 固定端です。怪しいネット説明では位相が反転して反射することを「固定点反射する」と言ったりするのを見かけますが、反射のしかたを呼ぶ言葉ではありませ ん。 当該の問題でも、音波が壁にぶつかる所の空気は、音波にとっての固定端です。そうでないと、教科書の説明等はひっくり返ってしまします。
A縦波の横波表示
音
波は粗密波ですが、空気の粗密は波の伝わる方向に分子団が変位している結果と考えられます。粗密波は縦波の別名であり、音波は縦波です。縦波の変位を表す
方法として、縦波を横波の形式で表す方法、「縦波の横波表示」を高校物理で学習します。疎密を表す波形は変位が見えにくいので、横波表示という方法で見や
すくするわけです。
たとえば、x方向に進行している縦波の変位の振動方向はx方向と平行ですが、その変位をy方向の変位に置き換えると描画できます。ただ、変位の方向をyの+にするか−にするかは、その問題で一貫していないと、今回のような理解しにくさが生まれます。
B固定点での反射
壁に右から図のような山一つ谷一つだけの縦波が入射する時の変位を、あらわしました。
横波だとしても全く同じ図です。) 黒は入射波、赤点線は自由端での反射波、赤線は反射波の変位をあらわします。 ただし、この図では、右向きをxの正方向、右向きの変位をyの正方向としましょう。 黒線と赤線が重なる位置ではそれらの変位の合計が媒質の変位になります。 もちろん「重ね合わせの原理」も変位の重ね合わせです。 重ね合わせの結果、固定端の変位が 常にゼロになるような反射波が発生するわけです。 その後の様子が下の図です。 結局、右変位は左変位に反転しました。 つまり、固定端反射では横波でも縦波でも変位が反転します。 入射波の右変位の部分は変位が後方だったけれど、 反射波の左変位は後方変位なので、 「位相」で言えば反転しなかったということになります。 固定端による反射では、 横波では位相反転しますが、縦波では変位は反転するけど、 前後が逆になるので位相は反転しません。 固定端では縦波の密は密として反射されるというのをご存知の人もいるかも知れませんが、 この作図でも密の部分は密の部分で反射されています。 |
C音叉から出る音波
音叉は図のように振動すると、阪大の問題中でも説明されています。おんさの左右に発生する音波の変位を横並み表示で表してみましょう。右向きの変位をyの正方向とします。 ある瞬間は図2のようになるでしょう。おんさ左側の空気は右に変位しているので横波表示では山、音叉右側の空気は左に変位しているので谷になっています。位相で言えば、どちらも進行方向に後方変位が最大になった瞬間なので、同位相と言えます。 |
図1 |
図2 |
阪大の正答
大阪大学が最終的に示した正答は3つです。Aは当初の正答、B,Cは今回追加したもの。
A ‥ 2d=(n-1/2)λ n=1,2,3,・・
B ‥ 2d=nλ n=1,2,3,・・
C ‥ 2d=0
CはBで n=0 とした場合なので、実質はAとBの2種類です。
答えに対する判定
Aの代表として 2d=λ/2
,Bの代表として 2d=λ の2つについて作図しました。これを見て判定して下さい。縦波の横波表示で変位を表しています。
ただし、図の右(x方向)の変位を上(y方向)に表しています。それぞれ、黒線は音叉の左から出た音波、赤線は反射波、青線は音叉の右から出た音波の変位です。
何がミスの原因?
というわけで、当初の正答Aは誤りでした。結局、音叉から左右に出る音波の位相は同位相であり、固定端で反射される時に音波の変位は反転するけど位相は反転しないから、道のりの違いだけで干渉を考えればよい、ということです。
上で確認したBかCのうち、少なくともどちらかを作問者が見誤ったと思われます。次の問題問4も前提が間違っているので、間違った問題になってしまいました。
たしかに、教員にとっても高校生にとっても、間違いやすい問題です。そういうミスは起こり得ることだと思います。しかし、こんな言い逃れのしようもない誤りについて、その誤りを大学が1年近く認めなかったことは、有り得ない話と思います。実質的な影響を受けた旧受験生諸君の気持ちを察します。